(奥山儀八郎の版画より)

コーヒーが日本に伝えられたのは江戸時代、元禄期(1700年前後)といわれ、長崎の出島に出入りした、オランダ人が持ち込んだのが最初です。しかし、この時代の日本人はコーヒーをまったく受け付けませんでした。その理由は、コーヒー独特の味と香りが、当時の日本人の味覚や、臭覚になじまなかったようです。江戸時代後期の戯作者、大田南畝なんぽ(蜀山人しょくさんじん)が長崎奉行所に勤務していたころ、「焦げ臭くて味ふるに堪えず」と日記に記しています。
さらに、第2の理由として、日本には緑茶という常用の飲み物が、毎日の生活に深く浸透していたので、無理に異国の飲み物を飲む必要はなかったのです。
 
日本人がコーヒーを飲み始めるのは、1854年に鎖国政策が解かれ、外国人との貿易が始まってからのことです。欧米のものは何でも良しとして取り入れました。コーヒーも例外ではなく、欧米人と接触する機会が増えた人々は進んで、コーヒーを口にしました。
 文明開化が叫ばれたこの時代、コーヒーはまさに文化の香りのする飲み物でした。明治新政府が、欧米政策の一環として、建設した鹿鳴館でもコーヒ−は必ず供され、飲用こそ一部の上流階級の人々や知識人に限られましたが、大いにもてはやされました。